なぜ中国地方で「穴場の紅葉スポット」を探すべきなのか?
中国地方は、瀬戸内海の穏やかな多島美と、中国山地の雄大な自然が織りなす、変化に富んだ地形が魅力のエリアです。秋が深まると、これらの山々や渓谷、歴史ある寺社が一斉に色づき、山陰・山陽ならではの風情豊かな紅葉風景を見せてくれます。
しかし、その美しさゆえに、全国的に知られる「超」有名スポットには、秋の行楽シーズンの週末を中心に、私たちが想像する以上の「大混雑」と「大渋滞」が発生します。「絶景」を求めて訪れたはずが、そのプロセスで疲れ果ててしまっては元も子もありません。
宮島、大山、帝釈峡…超有名スポットを待つ「大混雑」と「大渋滞」
例えば、広島県が誇る世界遺産「宮島」。厳島神社と紅葉谷公園の組み合わせは圧巻ですが、島へと渡るフェリー乗り場(宮島口)は早朝から長蛇の列。島に上陸してからも、紅葉谷公園へと続く道は人で溢れかえり、ゆっくりと紅葉を鑑賞する余裕を見つけるのは至難の業です。
鳥取県の「大山(だいせん)」も同様です。「鍵掛峠(かぎかけとうげ)」から望む、ブナの原生林と荒々しい南壁のコントラストは絶景ですが、見頃の時期の「大山環状道路」は、展望台の駐車場待ちの車で「紅葉渋滞」となり、動かなくなることもしばしば。広島県と岡山県にまたがる「帝釈峡(たいしゃくきょう)」も、神龍湖の遊覧船や雄橋(おんばし)周辺は多くの観光客で賑わいます。
「美しい紅葉」という感動は、そこにたどり着くまでのストレスや、人混みの喧騒によって、大きく損なわれてしまいます。そんな「紅葉疲れ」を回避するために、私たちは賢く「穴場」を探す必要があるのです。
「穴場」でしか味わえない、静かな山陰・山陽の秋景色
私たちが今回注目するのは、そうした喧騒とは無縁の「穴場スポット」です。穴場の魅力とは、何と言ってもその「静けさ」と「贅沢な時間」にあります。
人の声ではなく、風が木々を揺らす音、渓流のせせらぎ、そして自分の足が落ち葉を踏みしめる音だけに包まれる。国宝に指定された古い学び舎で、色づく楷(かい)の木を静かに見上げる。山深い古刹で、厳かな空気と共に紅葉と向き合う。
時には「この絶景を独り占めしている」かのような瞬間に出会えること。これこそが、穴場探しの最大の醍醐味です。中国地方5県には、宮島や大山の影に隠れた、地元の人々が大切に守ってきた素晴らしい場所が数多く存在します。
この記事では、「混雑を避けて、山陰・山陽の本物の秋をじっくりと味わいたい」と考えるあなたのために、プロの目線で厳選した「本当に価値のある穴場」だけをご紹介していきます。
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1.旧閑谷学校(きゅうしずたにがっこう)

備前市にある、日本で現存する最古の庶民向け公立学校です。ここの紅葉の主役は、国宝の講堂前にそびえ立つ2本の「楷(かい)の木」。孔子の墓所から種を持ち帰ったとされ、その葉が見事な黄色と赤色に染まる姿は圧巻です。観光地化された紅葉名所とは異なり、歴史的な建造物と調和した静謐な空間で、厳かな秋の空気を味わえます。
2.宇甘渓(うかいけい)

岡山市北区(旧御津町)にある、アクセスの良い穴場渓谷です。奥津渓ほどの知名度はありませんが、赤い吊り橋「宇甘渓橋」と、渓流沿いのカエデやモミジが織りなす風景は写真映えも抜群。遊歩道が整備されており、川のせせらぎを聞きながら、都市近郊とは思えない静かな紅葉散策が楽しめます。地元の人々に愛される、穏やかなスポットです。
3.豪渓(ごうけい)

総社市と吉備中央町にまたがる渓谷で、その名の通り、水墨画から抜け出たような巨岩・奇岩が連なるダイナミックな景観が特徴。その岩肌をカエデの赤や黄色が彩ります。ここが穴場である理由は、アクセスする道がやや狭く、公共交通機関での訪問が難しいため。その不便さが、手つかずの迫力ある紅葉と静けさを守っています。
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1.佛通寺(ぶっつうじ)

三原市にある、臨済宗佛通寺派の大本山。広島県内では屈指の紅葉名所として有名ですが、宮島のような観光地的な混雑とは無縁です。理由は、山深い渓谷の奥に位置し、公共交通機関でのアクセスが容易ではないため。参道を覆う見事なカエデのトンネルは、荘厳な禅寺の空気と相まって、心を洗われるような美しさ。まさに「大人のための穴場」です。
2.三段峡(さんだんきょう)

国の特別名勝にも指定される大渓谷。入口の「竜の口」や黒淵周辺は混雑することもありますが、全長10km以上に及ぶ広大な渓谷全体が穴場です。特に、中間地点の「三段滝」や、さらに奥の「三ツ滝」まで歩を進める人は少なく、本格的なハイキングを楽しみながら、手つかずの原生林と清流の紅葉を独り占めできます。
3.今高野山 龍華寺(いまたかやさん りゅうげじ)

世羅町にある、弘法大師ゆかりの古刹。世羅高原は「花」で有名ですが、秋の紅葉も見事です。ここのシンボルは、神々しいまでに黄金色に輝く「大イチョウ」と、それを引き立てるように色づくカエデの赤。宮島や帝釈峡の喧騒が嘘のように静かな境内で、歴史の重みを感じながらゆったりと秋色を鑑賞できます。
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1.長門峡(ちょうもんきょう)

山口市と萩市にまたがる、阿武川(あぶがわ)沿いの渓谷です。約5kmにわたって遊歩道が整備されており、奇岩や滝、淵など、変化に富んだ景観を紅葉と共に楽しめます。全区間を歩くと約2時間かかりますが、その分、奥に進むほど人は少なくなり、スケールの大きな渓谷美と紅葉を堪能できます。
2.大寧寺(たいねいじ)

長門湯本温泉街の奥に佇む、歴史ある寺院です。大内義隆が自刃した地としても知られ、歴史のロマンを感じさせる荘厳な雰囲気が漂います。境内を流れる川に架かる朱塗りの「虎渓橋(こけいばし)」とカエデのコントラストは見事。温泉とセットで、しっとりとした大人の秋を楽しめる穴場です。
3.寂地峡(じゃくちきょう)

山口県最高峰の寂地山の麓、岩国市の秘境とも言える場所です。「日本の滝百選」にも選ばれた「五竜の滝(ごりゅうのたき)」をはじめ、大小さまざまな滝が連続し、それらが紅葉に彩られます。アクセスが山深く、遊歩道もアップダウンがあるため、訪れる人は限られますが、マイナスイオンと紅葉を浴びる清々しい体験ができます。
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1.小鹿渓(おじかけい)

三朝温泉の奥座敷とも呼ばれる、国指定の名勝。大山のメジャーな混雑とは対照的に、こちらは「秘境」と呼ぶにふさわしい静けさが魅力です。原生林に覆われた渓谷に遊歩道が整備され、水晶(すいしょう)の滝など大小の滝と、透き通った清流、そして燃えるような紅葉のコントラストが楽しめます。
2.三徳山三佛寺(みとくさんさんぶつじ)

「日本一危険な国宝」とも呼ばれる「投入堂(なげいれどう)」で有名な修験道の山。本堂周辺の紅葉も美しいですが、ここの真価は「登山参拝」にあります。険しい道を乗り越えた者だけが見られる、断崖絶壁の投入堂と、眼下に広がる紅葉の海は、まさに「絶景」の一言。体力と装備が必要なため、究極の穴場と言えるでしょう。
3.諏訪神社(すわじんじゃ)

智頭町(ちづちょう)にある、地元で「もみじの御社」として愛される神社です。規模は大きくありませんが、参道から境内にかけて、約100本のカエデが作り出す「真っ赤な紅葉のトンネル」は圧巻。大山の広大な紅葉とは違う、凝縮された「赤」の世界を、静かな神社の空気の中で楽しめます。
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1.立久恵峡(たちくえきょう)

出雲大社から車で20分ほどと、アクセスが良いにも関わらず見逃されがちな穴場。「山陰の耶馬渓」とも呼ばれ、高さ100mを超える奇岩が連なる神戸川(かんどがわ)沿いが、見事な紅葉に染まります。旅館やキャンプ場もあり、遊歩道を散策しながら、迫力ある景観をゆったりと楽しめます。
2.鬼の舌震(おにのしたぶるい)

奥出雲町にある、V字渓谷に巨岩・奇岩がゴロゴロと転がる、神話の舞台でもある景勝地。名前のインパクトに負けない独特の景観が、紅葉によって一層引き立てられます。近年整備された「舌震の恋吊橋(したぶるいのこいつりばし)」からの眺めは抜群。遊歩道も整備され、探検気分で紅葉狩りができます。
3.由志園(ゆうしえん)

松江市の大根島にある、美しい日本庭園。足立美術館が「庭園もまた一幅の絵画である」なら、こちらは「回遊式」の庭園として、池泉(ちせん)に映る「逆さ紅葉」が魅力です。秋の夜間ライトアップは大変混雑しますが、あえて「日中」に訪れることで、静かに手入れの行き届いた庭園と紅葉の調和を、ゆっくりと鑑賞することができます。
中国地方の穴場紅葉を最大限に楽しむための3つのコツ
中国地方の「穴場」とされるスポットは、その多くが豊かな自然が残る山間部や、深い歴史を持つ渓谷沿いに点在しています。せっかく人混みを避けて訪れるのですから、その魅力を最大限に引き出し、安全で快適な旅にしたいものです。ここでは、旅の満足度を格段に上げるための、実践的な3つの秘訣をご紹介します。
1. 「穴場=山間部・渓谷」の法則。服装と運転の注意点
まず心に留めておくべきは、「穴場」の多くが「山間部・渓谷」であるという事実です。ご紹介した岡山の「豪渓」、広島の「三段峡」、山口の「寂地峡」、鳥取の「小鹿渓」、島根の「立久恵峡」など、そのほとんどが美しい水辺と深い山の中にあります。
これは、2つの準備が必要であることを意味します。一つは「運転の注意」です。現地へ至る道は、道幅が非常に狭く、対向車とのすれ違いが困難な山道であることも少なくありません。また、渓谷では携帯電話の電波が届かない場所もあります。ご自身の運転技術を過信せず、日の高いうちに余裕を持って行動してください。
二つ目は「服装と装備」です。これは「紅葉狩り」というより、「軽いハイキング」と考えるべきです。渓谷沿いの遊歩道は、濡れた落ち葉や苔むした岩で驚くほど滑りやすくなっています。ヒールや革靴は論外、最低でも履き慣れたスニーカー、できれば防水性のトレッキングシューズを推奨します。また、中国山地の朝晩は、瀬戸内側(山陽)の都市部とは比較にならないほど冷え込みます。着脱しやすい防寒着(フリースや薄手のダウン)は必須です。
2. 最新の色づき情報をチェック(標高差で変わる見頃)
中国地方は、標高0mの瀬戸内海沿岸から、鳥取の大山や中国山地の1,000m級の山々まで、非常に標高差が大きいエリアです。これは、紅葉の見頃が場所によって1ヶ月近く異なることを意味します。
例えば、鳥取の三徳山や大山周辺の山間部が10月下旬に見頃を迎える一方、岡山の旧閑谷学校のような平野部のスポットは11月中旬から下旬がピークとなります。宮島や帝釈峡のような超有名スポットと違い、「穴場」は日々の色づき情報が手に入りにくいことがあります。
訪問前には、必ず自治体や観光協会の公式サイト、あるいはX(旧Twitter)やInstagramなどのSNSで、現地のリアルタイムな情報を検索しましょう。「行ってみたら、まだ早すぎた」「もう全部散っていた」という悲劇を避けるための、最も重要な準備です。
また、穴場とはいえ週末は地元の訪問者で混雑することもあります。最高の訪問時間は「平日の早朝」です。静かなだけでなく、朝の澄んだ光が紅葉を最も美しく照らし出してくれます。
3. 紅葉とセットで!「山陰・山陽の幸」と「名湯」で旅を仕上げる
中国地方の秋の旅は、紅葉だけで終わらせるのは非常にもったいない。この季節は、「食」と「温泉」が最高の輝きを放つシーズンでもあるからです。
紅葉狩りで少し冷えた体は、周辺の名湯で癒しましょう。中国地方は、鳥取の「三朝温泉」、島根の「玉造温泉」や「湯の川温泉」、岡山の「湯郷温泉・湯原温泉」、山口の「長門湯本温泉」など、歴史ある温泉地が点在する「温泉天国」です。ご紹介した穴場スポットの多くが、これらの名湯の近くにあります。
そして、旅の締めくくりは「旬の幸」です。まさに11月上旬は、山陰側(鳥取・島根)で「松葉ガニ」の漁が解禁される、食通にとって最高のタイミング。山陽側(岡山・広島)では、「牡蠣」のシーズンが始まり、ぷりぷりの身を味わえます。島根の「出雲そば」も新そばの季節です。
「紅葉・温泉・カニ(または牡蠣)」。この黄金の組み合わせを計画に組み込むことで、あなたの穴場紅葉旅は、忘れられない完璧なものになるはずです。
まとめ:静かな中国地方で、あなただけの特別な秋色体験を
今回は、「混雑が少ない中国地方の穴場紅葉スポット」というテーマで、岡山・広島・山口・鳥取・島根の5県から、本当に価値のある隠れた名所と、その楽しみ方の秘訣をご紹介してきました。
広島の「宮島」、鳥取の「大山」、広島・岡山の「帝釈峡」。これらの超有名スポットが誇る絶景は、それと引き換えに「大渋滞」や「大混雑」という大きなストレスを私たちに強います。「紅葉狩り」が「人混みとの戦い」になってしまっては、せっかくの休日が台無しです。
この記事でご提案したのは、そうした喧騒から一歩離れた場所にある、「もう一つの中国地方の秋」です。
岡山の「旧閑谷学校」で、国宝の講堂と楷の木(かいのき)が織りなす静謐な空間。広島の「佛通寺」で、山深い禅寺の厳かな空気と共に浴びる紅葉。山口の「長門峡」や島根の「立久恵峡」で、渓谷のせせらぎだけを聞きながら見上げる絶景。これらこそが、人混みの中では決して得られない、あなただけの「特別な秋色体験」ではないでしょうか。
もちろん、その貴重な体験は、ほんの少しの準備と心構えがあってこそ完璧なものとなります。ご紹介した3つの秘訣—「穴場=山間部・渓谷」と心得る服装・装備(特に靴)と運転の準備、標高差を意識した最新の色づき情報の確認、そして旅の満足度を何倍にも高める「カニ」「牡蠣」といった旬の幸と「名湯」のリサーチ。
これらの準備を整えることで、あなたの紅葉旅は「疲れるイベント」から「心から癒される、豊かな時間」へと変わるはずです。
今年の秋は、ぜひいつもの定番ルートから一歩踏み出して、あなただけの静かな山陰・山陽の秋を探しに出かけてみてください。この記事が、そのための最高の羅針盤となれば幸いです。